樹脂材料の切削を行う際、樹脂材料の種類や用途、性質への理解は非常に重要です。
それぞれの種類により、樹脂の特徴から用途などが大きく異なるためです。
樹脂でも材料によって加工性が変わってきます。そこで今回は、樹脂材料について詳しく解説します。
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との違いと具体的な種類や特性、使用例を詳しく紹介します。
目次
1.樹脂材料は大きく分けて2つに分類
1-1.熱可塑性樹脂
1-2.熱硬化性樹脂
2.熱可塑性樹脂の種類
2-1.汎用プラスチック
2-2.エンジニアリングプラスチック(エンプラ)
2-3.スーパーエンジニアリングプラスチック
3.熱硬化性樹脂の種類
3-1.エポキシ樹脂(EP)
3-2.フェノール樹脂
4.まとめ
1.樹脂材料は大きく分けて2つに分類
プラスチックなどの樹脂は、「熱可塑性樹脂」と「熱硬化性樹脂」に分けられます。
ここではそれぞれの特徴について記載していきます。
1-1.熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、熱を加え温度が高くなると溶融し、冷却すると再び硬化する性質を持ちます。
再加熱することで形状を変更できます。
このように温めれば溶けて冷やせば固まるチョコレートに似た性質を持ちます。
1-2.熱硬化性樹脂
熱硬化性樹脂は一度加熱することにより化学反応がおき硬化します。
再加熱しても柔らかくならず形状が固定されたままです。
このように生地を焼くと固まって温めても生地には戻らないビスケットに似た性質を持ちます。
2.熱可塑性樹脂の種類
ここでは、熱可塑性樹脂の種類を紹介します。
2-1.汎用プラスチック
汎用プラスチックの大きな特性は、加工のしやすさです。100℃未満で変形できるだけでなく、耐衝撃性や耐薬品性、耐水性に優れていることから、さまざまな場所で活用されています。以下では、汎用プラスチックの種類を紹介します。
・ポリプロピレン(PP)
ポリプロピレン(PP)は耐薬品性、耐摩耗性、耐衝撃性、軽量性に優れています。
中でも耐薬品性の高さは大きな特徴で酸性やアルカリ性の薬液に対して強い耐性があり半導体関連、理化学、医療用途に多く使用されております。また熱可塑性の中でも特に耐熱温度が高く、電子レンジや冷蔵庫での使用にも適しています。
・ポリエチレン(PE)
ポリエチレン(PE)の特徴は、柔軟性と耐久性です。フィルムは農業用のマルチフィルムや建築用の防湿シートなどがあり、高い耐候性と耐久性を持っています。このようにポリエチレンは、柔軟性と耐久性を持つことで多くの産業分野で重要な役割を果たしています。
・ABS樹脂(ABS)
ABS樹脂(ABS)は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂とも呼ばれ、耐熱性や耐油性、衝撃性に秀でています。
活用例として、自動車部品や家電製品、玩具があります。自動車部品ではダッシュボードや外装部品に使用され、衝撃に強く、耐久性が求められる部分に適しています。
家電製品では、テレビの外装や冷蔵庫の内装に使われています。耐衝撃性と美しい外観が求められる製品にABS樹脂(ABS)は最適です。また、玩具ではレゴブロックなどの耐久性と安全性が求められる製品に使用されています。他のスーパーエンプラと比較すると安価であることも特徴の一つとなります。
・ポリスチレン・スチロール樹脂(PS)
ポリスチレン(PS)は、透明性と成形性が強みの樹脂です。強みを活かして日用品や包装材料など、多岐にわたる用途で利用されています。ポリスチレン(PS)は一方で衝撃には弱く、割れやすい点はデメリットのため、耐衝撃性が求められる用途には向いていません。
・塩化ビニル樹脂・ポリ塩化ビニル(PVC)
塩化ビニル樹脂・ポリ塩化ビニル(PVC)は、耐水性と耐薬品性に強い樹脂です。配管材料や建築資材として、広く利用されています。
耐久性と耐腐食性が求められるため、PVCはこれらの要件を満たしていることから最適な素材といえるでしょう。
さらに、塩化ビニル樹脂・ポリ塩化ビニル(PVC)は柔軟性があり、加工がしやすい点も大きなメリットです。
幅広い加工方法により電気絶縁体や床材、壁紙など、多岐にわたる建築材料にも利用されています。
・アクリル樹脂(PMMA)
アクリル樹脂(PMMA)は透明性が非常に高いことから、ガラスの代替品として利用される機会も多い樹脂です。
耐候性や耐衝撃性、加工性にも優れた特徴を持っています。看板やディスプレイ、窓ガラスの代替品などにも用いられます。
看板やディスプレイは透明度が高いため視認性がよく、耐候性があるため屋外でも長期間使用できます。
また加工度の自由度も高く、接着して使用されることも多い材質です。
2-2.エンジニアリングプラスチック(エンプラ)
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は、高い強度や耐熱性に秀でた特性を持つため、さまざまな産業分野で必要とされる材料です。具体例として、ヘッドライトなどの自動車部品や歯車やベアリングなどの機械部品に使用されます。
また、精密機械の部品や電子機器のコネクタにも活用されています。
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は高い性能と多様な用途により、先進的な製品や技術の開発には欠かせません。
以下では、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の種類を紹介します。
・ポリカーボネート(PC)
ポリカーボネート(PC)は、高い耐衝撃性と透明性を持つエンジニアリングプラスチックです。
強度が求められるシーンや、透明性が必要な場合に適しています。
主な使用例としては、防弾ガラスやヘルメットのシールド、電子機器のカバーなどです。
防弾素材には衝撃に対する強度がもっとも重要であり、ポリカーボネートの特性が多く活かされます。
一方、電子機器のディスプレイカバーでは透明でありながら強度も求められるため、画面の保護に適しています。
・ポリアセタール(POM)
ポリアセタール(POM)は、高い機械的強度と低摩擦性を持ちます。
この特徴を活かし、機械部品や精密機器の部品に多く使用されています。
たとえば、自動車部品でいえばギアやベアリング、スライド部品などが一般的な使用例です。
自動車のギアは高い強度と耐摩耗性が求められることから、ポリアセタールの特性が適しています。
ベアリングやスライド部品では、低摩擦特性が重要であり、滑らかな動作を実現します。
他にも吸水性が小さく寸法安定性に優れ、精密機械にも利用が可能です。
また柔軟性や耐衝撃性性能を強化したグレードは幅広く幅広い用途に使用されています。
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)は耐熱性や吸水率の低さ、電気特性、機械的強度に優れています。
それゆえ、電子部品や自動車の部品に多く採用されています。
自動車部品であれば、ドアハンドルやバルブ、スイッチなど活用範囲はさまざまです。
また、電気・電子機器では電気コネクタやハウジング、絶縁材料として使用されています。このように高い機械的強度と耐熱性により、ポリブチレンテレフタレート(PBT)は多くの産業分野で不可欠な材料として重宝されています。
・ポリエチレンテレフタレート(PET)
ポリエチレンテレフタレート(PET)は高い透明性と強度を持ち、飲料容器や食品包装など、多くの用途で利用されています。
主な使用例としてイメージしやすいのは、日常生活に欠かせないペットボトルです。
ペットボトルは軽量でありながら割れにくく、飲料の保存にも適しています。
また、食品包装では透明性が高いため中身が見えやすく、消費者にとって使いやすい点は大きな魅力です。
ポリエチレンテレフタレート(PET)はリサイクルが容易であり、環境にやさしい素材としても注目されています。
リサイクルされたポリエチレンテレフタレート(PET)は、新しいボトルや繊維製品として再利用されるケースが多いです。
当社ではPETフィルムを使用したウォータージェットでの加工も実績があります。
・MCナイロン(モノマーキャストナイロン)
MCナイロン(モノマーキャストナイロン)は、高い機械的強度と耐熱性、耐摩耗性から産業用部品に多く使用されています。
ほかの樹脂と異なり青色をしているため、装置に組み込まれても一目瞭然です。具体例として、車輪やギア、ベアリング、スライドガイドなどに用いられています。
ギアでは高負荷に耐えながらも滑らかな動作を実現でき、ベアリングでは低摩擦で長寿命が期待されます。このように、MCナイロン(モノマーキャストナイロン)は優れた機械的特性と耐摩耗性により、産業機械だけでなく搬送機械や食品梱包機械などさまざまな用途に適しています。
・ポリアミド(PA)
ポリアミド(PA)は耐摩耗性や耐衝撃性、耐熱性を持つ樹脂で多くの産業分野で活躍しています。
採用される場所は広範囲におよびますが、一般的には自動車のシートベルトやアクセルペダル、エンジンカバーなどがあります。
自動車部品は耐摩耗性と強度が求められるだけでなく、滑らかな動作も必要不可欠です。
優れた耐摩耗性と耐熱性から、幅広い用途で重要な役割を果たしています。
2-3.スーパーエンジニアリングプラスチック
スーパーエンジニアリングプラスチックは、エンヂニアリングプラスチックをさらに性能を向上させたプラスチックです。
耐熱基準として連続使用温度150℃以上とする見方もあります。ここでは、具体的な樹脂を3つ紹介します。
・フッ素樹脂
フッ素樹脂は、フッ素を含んだ合成樹脂指します。主な特徴として耐熱性、耐薬品性、滑り性、絶縁性、非粘着性等が挙げられます。
例えば、PTFEの融点は300℃を超えます。このような特徴から高温環境下でも使用されております。
優れた耐薬品性から薬品と接するガスケット、パッキン、バルブやポンプなどの製品での多く使用されます。
・ポリイミド(PI)
ポリイミド(PI)は耐熱性や電気絶縁性を持つため、高温環境や電気絶縁が必要な場面で多く利用されています。たとえば、スマートフォンなどの電子機器に欠かせないフレキシブルプリント基板や航空宇宙産業の部品があります。
フレキシブルプリント基板はポリイミド(PI)の柔軟性と耐熱性を活かし、電子機器の小型化や軽量化を実現しています。航空宇宙産業では、ポリイミド(PI)の耐熱性と高強度を活かし、エンジン部品や断熱材料に使用されています。高温環境下でも部品の性能を維持し、航空機の安全性を確保しています。
・ポリエーテルイミド(PEI)
ポリエーテルイミド(PEI)は、高い耐熱性と機械的強度を持つ高性能プラスチックです。
2000年にアメリカの企業で開発され、樹脂切削加工の業界において広く認知されています。
たとえば、自動車のエンジン部品や最近注目を集めている半導体などにも多く用いられています。
寸法安定性が高い材質の一つでもあります。
3.熱硬化性樹脂の種類
熱硬化性樹脂は、一度成形すると再加熱しても変形しない特性を持ちます。
そのため、お菓子のクッキーにたとえられることもあります。
以下に、代表的な熱硬化性樹脂の種類と特徴、用途について具体例を交えて紹介します。
3-1.エポキシ樹脂(EP)
エポキシ樹脂(EP)は耐摩耗性や絶縁性、耐熱性、高い強度を持ち、さまざまな用途で利用されています。
たとえば、電子部品の封止材や接着剤、塗料などがあります。電子部品の封止材としては高い絶縁性と耐熱性が求められるため、エポキシ樹脂(EP)は最適な選択肢といえます。
半導体チップの封止材として使用されることで、外部環境からの保護と安定した動作が確保されます。
また、エポキシ樹脂(EP)は塗料としても優れた耐候性と防腐性があり、外部環境に曝される構造物の保護に役立っています。
3-2.フェノール樹脂
フェノール樹脂は耐熱性と機械的強度に秀でた樹脂のため、多くの産業で用いられています。
以上のことから、フェノール樹脂は高温や過酷な環境での使用が求められる製品に適しており、その優秀さから多岐にわたる用途で活用されています。紙ベークライト(紙ベーク)はフェノール樹脂を紙に塗布し、熱で硬化させたもので、布ベークライトはフェノール樹脂を布に塗布し、熱で硬化させたものがあります。紙ベークは絶縁に優れ、布ベークは耐衝撃性が優れます。
用途としては、電気部品、機械部品などに使用されております。
4.まとめ
本記事では、樹脂材料の種類とそれぞれの特徴、用途、性質について解説しました。
記事内では熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の種類や具体例などを詳しく紹介しました。
用途や特徴に応じた材料選定の参考にしてみてください。